銀行から見た返済能力の判断

金融機関から見た企業の返済能力を測る指標として、「債務償還年数」があります。

金融機関ではポピュラーかつ非常に重要な企業評価の一指標です。

簡単に言えば「借入金を会社の稼ぎから返済していく場合、完済まで何年かかるか」を計算する指標です。


分かりやすさを優先してざっくり計算式で書くと、

((B/S借入金総額-現預金残高)÷(P/L営業利益+減価償却費)

で算出できます。


一年間の資金ベースでの稼ぎ(P/L営業利益+減価償却費)で、実質的な借入額(B/S借入金総額-現預金残高)を完済するのに何年かかるのかが、この計算式で分かります。
※借入金総額は役員借入金を含まず、金融機関からの借入金のみで計算します

金融機関ごとで判断は異なりますが、一般的に計算結果が10年を超えると返済能力が薄いと判断され、資金調達のハードルが上がっていきます。
なお、実質的無借金(現預金>借入金)の状態であれば、上記の計算結果は常に0を下回るので問題なしと判断されます。


経営者の方の多くが「年商規模と借入金総額の対比」で、自社が借りすぎかどうかを判断されます。

しかし実際は企業ごとに利益率が異なるのと同じで、売上規模と毎期の稼ぎ(返済能力)というのは必ずしも正の相関関係にありません。このため、毎期の資金ベースでの稼ぎ(営業利益+減価償却費)で計算する債務償還年数を用いて、自社の借入総額の多寡を判断された方が本質に近い判断ができます。


ちなみに、上記計算式の「((B/S借入金総額-現預金残高)÷(P/L営業利益+減価償却費)」というのは、正確には「EBITDA有利子負債倍率」という経営指標を算出する計算式であって、債務償還年数とは必ずしも一致しません。

ただ、実際にはこれで近似値を算定できるかつ計算が簡便なため、経営者の方が自社の決算書を分析する際には、この計算式で十分かと存じます。

というより、債務償還年数の計算方法というのは銀行ごとに違うため、「この計算方法で銀行は御社の債務償還年数を計算しています」とはどうしても言い切れないのです。

一度、自社の決算書に上記の計算式を当てはめてみることをお勧めします。意外な結果が見えてくるかもしれません。




なお、銀行からみた債務償還年数について、少し細かい論点ですが以下に記載します。
興味のある方だけ読み進めていただければと思います。

債務償還年数は正しくは

債務償還年数=(有利子負債の合計-正常運転資金)÷キャッシュフロー(返済原資)

で計算します。


それぞれの用語の意味としては、

〇有利子負債、名前の通り利子がつく負債です。
中小企業の決算書では「短期借入金、一年以内返済長期借入金、長期借入金、社債」がこれにあたります。なお、役員借入金は含みません。
この部分の計算についてはどの金融機関でも一致しています。


〇正常運転資金、通常は「売掛金+在庫-買掛金」で計算します。
売掛債権等から支払債務を引くことで、短期的に現金化可能な金額を算定します。
融資の現場ではこれに現預金残高を加算するケースが多いです。
※受取手形、支払手形があればこれも売掛金、買掛金に含みます

この「正常運転資金」部分の捉え方が金融機関ごとに異なります。

①正常運転資金=現預金残高
②正常運転資金=現預金残高+(売掛金+在庫-買掛金)
③正常運転資金=売掛金+在庫-買掛金

融資の現場では、②の方法で算出されることが多いように感じます。


〇キャッシュフロー(返済原資)
毎期の稼ぐ力を表しています。これも金融機関ごとに捉え方が異なります。

①税引後当期純利益+減価償却費
②経常利益+減価償却費-法人税等
③営業利益+減価償却費-法人税等

どの計算方法で行っているかは銀行ごとさまざまですが、②の方法が多いようです。


ちなみに、銀行担当者に「債務償還年数はどのように計算しているの?」と聞くと答えてくれることも多いです。

長々と書きましたが、直接聞いてしまうのが一番手っ取り早いかもしれません。。