借入本数が増えると資金繰りが悪化する

杉本和生税理士事務所の杉本です。

今回は、借入本数と毎月返済額についてのお話です。



企業というのは、基本的に取引規模が大きくなればなるほど借入金額が大きくなります。

取引量が多くなればなるほど先に支払う仕入れ代金が大きくなるため、仕入れ代金を確保するため借入金額を増やす必要があります。

もちろん、自己資金が多くある企業は借り入れに頼らずとも仕入れを行うことは可能ですが、企業の成長期にはある程度は借り入れに頼らざるを得なくなりますし、それが中小企業の正しい成長方法だと思います。

ただこの場合に、都度々々借入本数を増やしていると、気付かぬうちに毎月の返済負担を増やすことになるため注意が必要です。

例えば、銀行から仕入れ代金として1,000万円、5年返済で借りたとします。

毎月の元金返済額は166,000円です。

その後2年半かけて500万円返済して残り500万円残っている状態だとします。

この場合、多くの企業では返済した500万円の返済分を利益で賄うのは現実厳しいため折り返し融資を受けます。返済した分をまた新たに借りるということです。

業績が大きく悪化していなければ、500万円の追加融資希望はすんなり通り、1~2週間で銀行から借りることができます。

この時、銀行から新たに500万円、5年返済で借りたとします。

このときの借入金の残高は、当初借り入れの残額500万円と、新規借り入れ500万円の合計1,000万円となります。

毎月の返済額は166,000円(当初分)と83,000円(二回目)で249,000円です。

借入残高は1,000万円で変わりはないのに、毎月の返済額は大きく膨れ上がります。

これが借入金が増えていないのに、毎月の返済額が増えて資金繰りが忙しくなる原因です。

借入の本数が増えると、借入金のボリュームは全体が変わらずとも中が細分化され、毎月の返済額が増えていきます。

以上の話は当たり前といえば当たり前なのですが、3年、4年かけてこういう形になっていく企業が多く、長い期間で変化していくため経営者の方も気づかない方が多いです。

金融機関の担当者も巧みで、企業の業績が好調であれば「前回より利率を下げますので、新たに借入されませんか?」と提案をしてきます。

経営者の方も、金利負担(コスト)が下がるのであればよいと思い採用します。

これが繰り返されることで資金繰りが苦しくなってきます。

解決策としては、返済分を追加融資(折り返し)で受けるのではなく、おまとめ融資(借り換え)で受けることです。

500万円追加で借りるのではなく、1,000万円を追加で借りて500万円の旧借入を完済するという方法です。これなら毎月の返済元金は増加せず、資金繰りが安定します。

金融機関の方もこのロジックは当然知っていますが、追加融資を提案することがほとんどです。

主な理由は3つ

一つ目は、銀行内の責任問題

当初借りて残っている500万円が貸し倒れた場合、この時にお金を貸すことを決断した前担当者、前課長、前支店長の責任です。

おまとめ融資を行い当初借り入れ分を完済させれば旧担当者たちの責任はそこで終わり、新担当者等が新たに貸し付けた1,000万円全額の責任を負うことになります。

銀行とはいってもその内部は一般企業と似ていて、そこで働く人々はできるだけ責任を避けたいというのが本音です。

二つ目は、社長の説得しやすさ

銀行員から社長に借り入れの提案をする際、

「返済が進んだ分(500万円)新たに借りませんか?」という話の仕方は自然で社長を説得しやすいからです。業績が良い場合にはここに「多少金利も下げますよ」と付け加えれば多くの社長は気を良くして借ります。

三つめは、企業の業績が悪化した際に引き上げやすいから

企業から見て「毎月の借入金返済額が増える」ということは、銀行から見れば「毎月の貸付金回収スピードが早まる」ということです。

中小企業の業績というのはきっかけひとつで大きく増減し、悪化するときはものすごいスピードで悪化します。

業績が悪化した際には貸したお金を早期に回収しようとしますので、毎月の返済額が増えるというのは金融機関から見るとメリットです。


借入を行う際は利率のみではなく、毎月の返済額も気にかけてください。

資金調達する際は、追加融資ではなくおまとめ融資を受けたほうが資金繰りが安定しますので、銀行担当者に「折り返しではなく巻き直しできないか?」と打診するようにしてください。