〇〇比率による財務分析に偏るべきでない

皆さん、「自己資本比率」という言葉をご存知でしょうか。

いきなりとっつきにくい言葉からはじまりましたが、自己資本比率というのはバランスシート上の資産総額・負債総額のバランスを表す指標です。企業の安全性を分析するために用いられます。

例えば会社の資産1億円に対して負債が7,000万円なら、資産が3,000万円上回っている状態といえます。この資産超過部分3,000万円が自己資本であり、この場合は自己資本比率30%となります。(新株予約権、少数株主持分などの論点は中小企業ではまず出てこないのでここでは無視します。)


財務状況の改善についてここまで行けば大丈夫というはっきりしたゴールはありませんが、一般的に自己資本比率が30%を超えていれば優良企業、 50%を超えれば超優良企業と言われます。

自己資本比率が増加するほど銀行からの評価が上がるといわれますし、実際にその通りです。

ただ、自己資本の評価に限らず皆さんに気をつけていただきたいのは、自社の財務分析を「パーセンテージだけで見るのは怖い」ということです。


自己資本比率の話であっても、資産総額1,000万円、負債総額700万円だった場合でも自己資本比率は30%となり、一般的には優良企業の部類に入ります。

ただ見方を変えてみると、300万円の赤字を出したらすぐに債務超過に陥る状態です。

自己資本比率が高ければその会社は安定していると言われますが、中小企業の財務分析を行う上では、比率よりも金額の大きさ自体を見ることが重要です。


総資産が同じ1,000万円の企業でも、年商1,000万円の企業もありますし年商1億円の企業もあります。

売上高が1,000万円に対して自己資本を300万円確保しているのであれば安定感はあると思いますが、年商1億円の企業で自己資本300万円では話が変わります。

経済環境の変化が大きい現代にあっては、年商1億円の企業が年商5,000万円に落ちることなんてざらです。

毎月の固定費を賄えなくなって300万円を超える赤字決算を迎えたという例は今までたくさん見てきました。こうなると、自己資本比率30%で優良企業と思われていた企業であっても一気に債務超過に陥ってしまいます。


あくまで教科書的な比率分析だけで見ては、中小企業の安定性は確認できません。

その会社の取引事情や各期の売上高、毎月の固定費がいくらかなどを総合的に判断して、はじめてその会社の安定感というのはわかってきます。

財務分析というのは大企業の評価には有効ですが、こと中小企業、特に年商数千万円~数億円規模の会社にあってはほとんど当てはまりません。そしてこの規模の会社の安全性を測る指標というのは、教科書には載っていません。

財務の勉強をしてきた経営者の方の中には「自社の現状と教科書的な財務分析の結果がいまいちしっくりこない」ということもあったと思いますが、それは当然のことだと思います。

中小企業の分析にあっては、○○比率というのはあまり参考にすべきではないというのが 私の考えです。

「率」ではなく「額」 で考えるのが重要です。


○○比率という分析の仕方は、会社規模で指標の見方が変わってしまい実践的でない。

中小企業の社長が使う指標としては観念的すぎて、経営の道具として役立てづらいです。極端かもしれませんが、中小企業の財務分析は足し算引き算が出来れば充分ではないか考えます。率は割り算だから必要ない。

数字に苦手意識がある経営者の皆さまにあっては、率は捨てていいと思いますし、財務分析の知識がある方についても、分析指標などは後にしていったん足し算引き算でみたほうが、企業の状態を正しく判断できるのではないかと思います。