科目内訳明細書で融資が決まる

勘定科目内訳明細書とは、「賃借対照表」や「損益計算書」の勘定科目の明細を示した決算書類の一つです。

個人事業主の場合作成することはありませんが、法人であれば決算のたび作成が義務付けられています。

決算書の見方・分析の仕方といった書籍は多数発行されていますが、勘定科目内訳明細書について書かれた書籍は少なく、あまり気にされたことのない経営者も多いと思います。

しかし、融資を受ける際には非常に重要な書類になります。
銀行員は多くの場合、決算書の数字を分析するより勘定科目内訳明細書の内容を吟味することに時間を割きます。

たとえば、決算書に売掛金10億円と記載があっても「どの取引先に対してなのか」などの具体的な内容は、貸借対照表の数字だけでは分かりません。売掛金というのは取引の中で生きている存在ですので、売掛金10億円とあっても、一部が貸倒れ状態にあれば決算書の評価は大きく変わります。

各銀行はプロパー融資などを行う際、提出された決算書の数値を「本当の数字」に書きなおし、この本当の数値を基に対象企業の「正常収益力」や「実態バランスシート」を把握します。
これらを作成する根拠となる情報の多くが、勘定科目内訳明細書に記載されています。

以下では、銀行員目線での勘定科目内訳明細書の主なポイントを記載します。


「現預金等の内訳書」

現金…
残高が異常に膨らんでいないか(実際の現金残と合っているか)を見ます。
現金残高が異常に膨らんでいる場合、そのほとんどが社長で個人使用した資金(経費で落とせないもの)を現金引き出しとして処理した場合に発生します。これが何年も積み重なって異常な金額になっていきます。
正直、これが発生するのは会計事務所の責任であることがほとんどです。記帳代行の依頼を受けた際、取引内容不明のものを社長への聞き取りを行わずに現金(または仮払金、貸付金など)に突っ込んだ場合によく起きます。
この場合、銀行は現金残高がないものとして0円で評価します。
現金を0円評価したことで資産総額が圧縮され、貸借対照表上表面的には自己資本プラスとなっていても、実際は債務超過だと判断されるケースがあります。

預金…
「メインの預金口座(決済口座)はどこか」「定期預金を他行にとられていないか」の二点を中心に確認します。
これらはその会社の財務評価に直接的な影響を与えるものではありませんが、「借入金の内訳書」とともに他行の動向を見るために確認します。


「売掛金の内訳書」

「不良債権」がないかをチェックします。

過去3期間比較して、同じ取引先に同じ金額で変わらず置いてあったら、まず不良債権ではないかと疑います。
決算書上の売掛金が1億円あったとしても、内2,000万円が実質的に貸倒れ状態だと判断されれば、実際の売掛金残は8,000万だという認識で決算書を評価します。

表面上決算書の数値は良好でも、これらの実態評価でふるい落とされた結果、実質的債務超過状態だと判断され融資が通らないというケースは往々にしてあります。


「仮払金・貸付金の内訳書」

貸付金と仮払金は、銀行が一番嫌う勘定科目です。

貸付金があるということは、銀行から借りたお金を誰かに又貸ししている状態です。
仮払金にあっては、支出使途不明なケースがほとんどです(先に述べた「異常に膨れ上がった現金残高」と同じ状態)。
これらはほとんどの場合ない(0円)ものとして評価します。


「棚卸資産の内訳書」

勘定科目内訳明細書のチェック項目とは少しずれますが、在庫架空計上による粉飾決算が行われていないかは厳しくチェックしています。


「借入金の内訳書」

どういう金融機関からどの程度お金を借りているのかは、各銀行も非常に気にしています。

メガバンク・地方銀行・信用金庫でレベル感はまちまちですが、やはり審査目線の厳しい銀行からお金を借りている=厳しい審査項目をクリアした、という事実に繋がります。
地方銀行プロパー融資や商工中金融資のように、ある程度審査の厳しい条件をクリアしていると、他の銀行からみた信頼度もグッと上がります。

また銀行員は、その会社がどこの金融機関からいくら借りているかを把握するため、対象企業の「銀行取引一覧表」を作成しています。この作成のためにも借入金の内訳書というのは銀行員も重視しています。


「役員報酬の内訳明細」

社長が生活に必要な金額を十分に取れているかを見ます。

決算書が黒字だとしても、役員報酬を極端に少ない金額にしているのであれば「無理やり黒字に見せた決算書」だと判断されマイナス評価されることもあります。


「地代家賃の内訳明細」

どこの物件を借りているかより、「社長から借りている物件はないか」をチェックします。
例えば工場の土地建物を社長個人で持っているケースや、会社の事務所の不動産が社長個人名義ということもよくあります。
決算書上の役員報酬金額が少なくても、会社から社長へ地代家賃を毎月100万円払っているのであれば、当然評価は変わってきます。

また、地代家賃の内訳明細にはその土地建物の住所も記載されていますので、銀行はその土地の登記簿謄本を取り寄せて「担保に入っていないか」「どの程度の価値がある土地なのか」を見ることがあります。
中小企業の返済能力というのは、こういった社長個人の財産状況も踏まえて判断されます。

その他、「有価証券の評価」や「雑収入に特別利益項目が含まれていないか」など様々な視点でチェックしています。

また、取引条件の厳しい取引先との取引が経常的に行われていれば、その企業の品質管理などが高い水準にあるのだろうなど考えられますし、数字以外の定性評価にも用いられます。

決算書をチェックをされる経営者の方は多いですが、勘定科目内訳書をチェックされる方は少なく、会計事務所任せになってしまうケースが多いように思います。
経営者自身で勘定科目内訳書を決算毎にチェックし、決算書表面上の数値と実態の数値がどの程度乖離しているのか、また作成に誤りがないかなどを確認されることをお勧めします。